相乗効果の経験則

素材の周波数特性

石膏ボードなど硬質遮音材の重要な特性として、「重ねても質量則通りの遮音効果は出ない」という事実は、防音設計の大前提になります。

 

上の図が石膏ボード9.5ミリの遮音性能(透過損失のデータ)です。ご覧のように質量則通りの性能を発揮できない周波数帯が存在します。

*板状の硬質遮音材(ガラス、ALC、薄い金属など)の共通した傾向です。

*質量則の遮音性能を大幅に下回る現象をコインシデンスと言います。

 

下の図は石膏ボード21ミリの遮音性能ですが、厚くしても1000~2500Hzの周波数帯において、逆に遮音性能が低下しています。

 

これは硬質の遮音材を重ねても相乗効果は出ないだけでなく、逆効果になる周波数帯が出てくるということを示しています。

 

また、石膏ボードを重ねる際に、中間に薄い遮音シート(面密度約2.0~2.5kg/㎡、厚さ1.0~1.2ミリ程度)を挟んでも、ほとんど相乗効果はないという事が日本音響学会の検証データで明らかになっています。

 

素材の持つ周波数特性や柔軟性・制振性・面密度が遮音性能の相乗効果を大きく左右します。要するに単に遮音素材を重ねるだけでは、防音のプラス効果は出ない場合があるのです。

*建築士や専門業者が失敗する現場の主な要因となっています。


机上理論の補正が防音効果を高める

質量則など机上理論は、実際の現場での防音効果と乖離することが多いのは、上記で述べた要因だけでなく、製品のメーカー公表データと現場の数値的な計測データが乖離していることが大きく影響しています。

*メーカー試験の試験体は現場の区画よりもきわめて小さく、固定条件が違うため、同等の遮音性能や吸音性能が出ない。

*通常、実際の現場のほうが施工区画が大きいため、試験体の遮音効果が出ないことが多い。

*また、面密度の小さな遮音材は板状の面に張りつけると相乗効果は出ない。

 

このため、製品ごとの組合せに応じて、現場で計測したり、体感して検証することが、防音設計には重要です。

得られた経験値によって補正し、リスクを回避しながら遮音効果を予測する必要があります。

*参考:防音材の周波数特性と相乗効果

 

正しい設計・施工を行えば、防音効果は高めることができます。これが防音設計の常識です。

*木造建物では設計仕様によって顕著な差が出ます。

 

「理想的な遮音材」のページで述べたように、適切な遮音材と石膏ボード・合板などを組み合わせれば相乗効果が期待できます。

*周波数別の遮音特性や素材の柔軟性・組成が異なる製品を併用すると、弱点を補完できるので、質量則を超えた相乗効果が発揮されることが多いのです。